【野球部】「大切なことは後悔しないこと」オリックスのサブマリン中川颯の軌跡と夢の叶え方―③自分にとっての野球と貫いた姿勢

ドラフト会議を終え、東京六大学野球が閉幕―――。大学卒業を間近に控え、ふと自分の野球人生を振り返った。大学ではリーグ優勝、全日本制覇なども経験をしたが、それよりも色濃く残るのは辛い思い出だった。それでも野球を続けられたのは、彼自身の野球の捉え方の変化にあった。

周りの支えが辛さを乗り越える原動力に

「一言で表すならば、本当に辛かったです。うまくいかないことばかりで、何度も辞めたいと思ったこともありました」。大学野球が終わり、節目ともいえる機会に自分自身の野球人生を振り返った。決して順風満帆な野球人生ではなく、逆境や辛さが彼の脳裏に刻まれていた。小学校1年生から飛び込んだ野球の世界。始めた当時からプロ野球選手を目標に父と厳しい特訓の毎日を送った。身体面では、身体は小さく、足も遅かった。高校では二刀流として活躍するも甲子園出場とはならなかった。大学でも1年生以降は不調続き。試行錯誤の中で、最後まで苦しみ続けた。

小学校6年生の時に出場した大会。優勝旗を持っているのが中川。少年野球で出会った仲間達とは今でも交流がある

59年ぶりの立大日本一の瞬間。思いもしなかったステージで躍動した

そんな中、彼を野球の世界に引き留めたのは周りの存在だった。本気で自分自身を鍛えてくれた父親や支えてくれた母親の存在。トレーナーとして支えてくれた若林さんの存在。どんな状況でも応援してくれるファンや切磋琢磨したチームメイトの存在。高みを目指し続けた野球生活の中で様々な人と出会う事が出来た。時には大会で実績を残し、仲間と共に一生の思い出を得た。「なぜ辞めなかったのか。振り返ると、僕は周りの人に恵まれたからだと思います。野球を続けるほどに色々な人と出会い、様々な事を学びました。自分一人ではたどり着けないレベルの高い野球や貴重な経験もしました。きっとそれらが、辛かった野球を自分の心の奥底で家族のようなかけがえのない存在に変えていったのだと思います」。無意識にもいつしか野球は辛くとも手放したくない存在になっていったのだった。

中川の夢の叶え方―大切なのは「後悔のないように野球をすること」

辛かったが、周りに支えられ、かけがえのない存在となった野球。だからこそ、野球を失いたくない。そして、終えるときにはやり残したことなく終えたい。野球を続ける中で、大切にしていたことは自分が後で後悔をしない野球をすることだ。「もちろん目標はプロ野球選手でした。でも、あまりにも先の事です。目指す過程で怪我をするかもしれないし、突然諦めざるを得ないことになるかもしれない。いつなれるかも分からない。だから、途中で失敗しても後で自分が後悔しないように野球をすることを大切にしていました」。高みを目指す中で取り組んだアンダースローへの投法変更や二刀流への挑戦。他人とは違う選択肢や前例のない取り組みに対し、環境の変化や怪我のリスクを恐れず飛び込めたのは「プロになる為に努力する」というよりも「失敗したとしても、自分が納得できるように考え努力すること」を軸に野球と向き合い続けたからだった。自分自身と向き合い、失敗や成功を繰り返したからこそ、誰よりも自分自身の状態や成長できる道を知っている。この考えと努力の積み重ねがプロの世界の扉を開けた。

会見後、自身の投球フォームを見せた中川。「ようやくスタートラインに立てた」と安堵の表情を見せた

最後に「これからどんなプロ野球人生を歩みたいか」と質問した。対し、「自分が終えるときに後悔のない野球選手になりたい」とあえて具体的な目標は心に留め、自分自身の野球への向き合い方を貫くことを語った。彼の成長はここからはじまる。なぜなら、今からが“自分が納得できる野球”のスタートラインなのだから。

（１月25日／山口史泰）

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